前回に引き続き今回も孫子の兵法を解説していきたいと思います。四章 形篇、五章 勢篇、六章 虚実篇を書いていきたいと思います。
『四章 形篇』
孫子曰く、戦闘に勝利を収めたのち、天下中の人々が立派だと誉め称えるようでは、優れたものとは言えない。我々兵法家の間ですぐれていると称されるものは、容易に勝てる体勢の敵に勝つものである。それだから優れた者が戦う場合には、世間を驚かせるような奇抜な勝利もなく、智将だとの名声もなく、勇敢な武功もない。したがって彼の勝利にはいささかの危なげもない。何ら危なげがないわけは、あらかじめ勝利を設定した状況が、態勢として、敗れている敵に勝つようになっているからである。
巧みに戦うものは、決して敗れる恐れのない態勢に身をおいて、敵が敗れ去る機会を逸しない。つまり、勝利する軍は勝利を確定してから、予定通り実現しようと戦闘するが、敗北する軍は、まず戦闘を開始してから、そのあとで勝利を追い求めます。
こうした勝ち方は、そのような態勢で戦えば、誰でも勝つのが当たり前だと見なされ、世間の評価は得られないものです。世間の人々がもてはやすのは、土壇場での奇策による大逆転や、優先奮闘でもぎとった勝利です。ですがそれは、劇的なぶんだけ、実は際どい辛勝であったとしなければならないと孫子はいっています。そうした賭博に等しい戦闘を排斥し、戦闘をより確実性のあるものにして当然のごとく勝てと孫子は主張しています。
『五章 勢篇』
孫子曰く、水が激しく流れて石をも漂わさせるまでに至るのが、勢いである。だから巧みに戦うものは、その戦闘に突入する勢いが限度いっぱい蓄積されて険しく、その蓄積した力を放出する節は一瞬の間である。勢いを蓄えるのは弓の弦をいっぱいに張るようなものであり、節は瞬間的に引き金を引くようなものである。
勢は、蓄積と発射の二段階より構成されます。前者は限界までエネルギーを蓄積する作業です。蓄積したエネルギーの大小によって発射後の勢の強弱が決定します。また、後者は蓄えたエネルギーを瞬時に発射し、静的エネルギーを動的パワーに転換する作業です。発射に要する時間が短いほど、目標物への衝撃力は強大となります。つまり、エネルギーの蓄積量が大きく、それが短期間のうちに発射されたとき、破壊力はもっとも強大となります。こうした見方をすれば、戦場への兵力の逐次投入は、わざわざ破壊力を弱めて小出しにするもので、孫子の説く勢の理論に反するものになります。身近な例で言えば、仕事や学習などの短期集中のやり方がこれに当たるかもしれませんね。より集中力を持って短時間で行えば、効率は最大化されるというようなものかもしれません。
『六章 虚実篇』
孫子曰く、巧みに軍を率いるものは、敵軍には態勢を露にさせておきながら、自軍の側は態勢を隠したままにする。自軍は敵軍の配置が判明しているから、不安なく兵力を集中するが、敵軍は自軍の配置が不明なため、すべての可能性に備えようとして、兵力を分散する。自軍は全兵力で一つの部隊となり、敵は十の部隊になれば、それは、敵の十倍の兵力で見方の十分の一の敵を攻撃することを意味する。つまり、寡兵で大軍を撃破できるのである。
ここで孫子は、総兵力で優勢な敵に対し、敵の兵力を分断することで相対的有利を作り出し、敵を打ち破ることが可能だと言っています。この戦術は、かなりの高等技術が必要となりますが、成功したときの威力は絶大だと言えます。そして、この戦術をとるためには以下の三つのことが必要になります。
・第一に自分達の部隊は自分達の土地を守ることを放棄します。戦力の劣勢により、守備に人手をさく余裕がないからです。そして、部隊を一つにまとめます。
・第二に自分達の戦略を偽装して、敵に悟られないようにすることです。偽の情報を流したり、自軍の部隊を隠したりして、敵を油断させ、敵の兵力集中を阻止します。
・第三に急速な兵力集中による奇襲の実現です。敵の各個撃破が目的であるので、敵の終結よりも速く次々に撃破するための進軍スピードが必要です。
以上の三点が確保されたとき、総兵力では優勢な敵を劣勢な兵力で圧倒出来ます。その結果として、いったんは放棄した土地の防衛も自ずと実現できるのです。つまり、至るところを守備せんとする歩哨線方式の防御戦法は、戦力はおろか結局は土地すらも守りきれぬ愚策であると孫子は言っているのです。
これを実際に行った人物として、日本の織田信長があげられます。有名な桶狭間にて、今川義元を討ったあの戦いは、孫子の兵法に準ずるものではないでしょうか。このブログでも過去に桶狭間の戦いを記事にしてますので、興味のあるか方は是非一度読んでみてください。
桶狭間の戦い 背景
http://bishamondou.blogspot.com/2019/10/blog-post.html?m=1
以上で今回の記事は終わりです。いかがだったでしょうか?今回は孫子の兵法の濃い内容に入ったので、少し難しく感じた方もいらっしゃったかも知れませんが、含蓄の深い章だったことと思います。次回は第七章 軍争篇です。こちらも興味深い内容となっています。是非ご覧ください。